成功例

株式の集約が、後々の売却成功へとつながる。
(株式分散は売却の障害になるおそれあり)

名称 合成樹脂加工会社 甲社 設立 1960年代
従業員数 30人 資本金 6,000万円
売上規模 約18億円 経営者年齢 63歳
主な資産 土地・工場・機械設備 株式 代表者37%、親族34%、他29%
事業内容 合成樹脂加工

※情報はいずれも事業承継前の内容

【A氏と甲社】

先代が甲社を設立したのは1958年。甲社は合成樹脂の加工業を営んでいる。社長のA氏は先代の娘であり、1996年に先代が他界したことを機に代表取締役に就任した。以来14年間、社長業を務めてきた。
A氏は地元の商業高校卒業後、簿記学校へ通った。A氏が簿記学校に通っていたのは1963年から2年間だった。1966年に地元高校の教諭の男性と結婚した。子どもが生まれてからA氏は実家に行く機会が増え、両親も孫に会えるのを楽しみにしてくれていた。
ある日A氏は子どもの養育費を貯めようと甲社で経理として働かせてもらえないかと言い出した。夫とは相談済みであった。父親としても経理を雇おうと検討していたタイミングでもあったので、A氏が勤務中は実家で母親が孫の面倒を見ることになった。1970年にA氏は甲社に正式に入社した。

【税理士からの提案】

甲社では2006年に税理士が交代した。前の税理士は父親の友人だった。税務署を退官してから税理士を開業していたが、「最近体がきかなくなってきたから、そろそろ引退したい」と言ってきた。父親が他界してからもA氏のことを何かと気遣ってくれた。A氏は長い間の感謝を伝え、後任の税理士を紹介してもらうことにした。
後任の税理士への引継ぎも済んだ頃、その税理士からあることを提案され。「会社法が改正になったのですが、それにより株式を集約させやすくなっています。試してみてはいかがかと思いまして。社長は現在の株主の氏名、お住まいやそれぞれの株主の議決権等を正確にご存知ですか。」
父親の葬式の後、親戚同士で集まり、前任の税理士と弁護士できちんと相続の手続きは済んでいた。相続した頃の株主名簿を使って株主総会の招集通知をし、家族会議のようではあったが株主総会も行っていた。甲社の前任の税理士が税務署の職員だったからだろうか"法令の遵守"には神経を使っていた。
税理士の話では株式は、確かに適切に相続された。しかし、株主は父親以外に何人かいる。株主の多くは親戚だが、父親の友人もいた。父親の葬式以来会っていない人もいる。株主総会は全員出席したことはないし、夫婦や子ども連れでくる株主もいる。親戚のうち誰が株主かは曖昧なところがあった。
税理士は、「もし株主が亡くなっていたら、その子どもへ株式が相続され、株式がどんどん散らばっていく懸念があります」と言う。したがって、株式の分散を防ぐため、株式を集中させていきましょうということらしい。

【株式の集約、資産整理。そして、事業承継対策】

株主の氏名や住所が正確か確かめたことはない。招集通知といっても暑中見舞いみたいなもので、中には電話で「今年の総会は○月○○日の夕方7時から始めるから」と、口頭で伝えるのみだったところもある。株主名簿は14年前のままだ。税理士の提案で改めて株主名簿を作成することになった。種類株式の発行、全部取得条項を付する旨の決議をすることで株式の集約を図る計画を立てた。古くから付合いがある株主だから角が立たないように事前に説明が必要だ。
さらに既にA氏は63歳になっていることから、これをきっかけに事業承継計画の作成を検討することにした。父親から事業を引継いだ日の不安を思い出すと自分が丈夫なうちにできることはしておこうと思った。A氏には娘が一人いるが、既に結婚し家庭に入っていた。親族には後継者はいないが、従業員には経営者として適切な人物がいた。しかし、この時点ではその人物の事業承継の意思は確認できていなかった。従業員に事業を引継ぐということを想定しつつ、従業員が事業承継を受けなかった場合他者への売却することも計画に盛り込んだ。従業員による承継や外部への売却可能性がいる以上、役員の財産と会社資産をきちんと整理する必要がある。社宅扱いしているA氏の自宅は甲社からA氏が買い取った。またA氏が個人的に会社に貸付けているいわゆる"役員借入金"は社宅購入代金と相殺して決済することになった。税理士と相談して、時機をみてM&A仲介会社へ登録し、いずれ売却する必要があるかもしれない旨を伝えておくことにした。

【売却の決断】

分散した株式を取得する資金や会社の資産のうち、個人使用分を取得する資金の捻出には数年かかった。父親の代から株主だった親戚や父親の友人たちから株式を取得した。特に、全部取得条項を付す決議の際には事前に説明したり、A氏個人で買取ったり気を使った。
最終的にはA氏の株式、もしくは甲社の自己株式として集約した。個人資産と会社資産の整理も進んだ。夫が体調を崩したころA氏はM&Aを決めた。2人で引退生活を送りたいと考えるようになったからだ。後継者と考えていた従業員に事業を引継いでもらえるように頼んだが、経済的な事情や自分の老後の生活を考慮して甲社株式の購入は遠慮したいそうだ。
A氏は現在、夫と生活しており、仕事は引退した。甲社の売却先が見つかるまで1年半を要した。甲社を引継いだ会社は同業、同規模の企業を探していたそうだ。同業で会社の規模も同じくらいの会社は経営内容も同じようなものだった。甲社の経営内容を理解してもらいやすかった。またA氏へ株式を集中させていたことや個人資産と会社資産が整理されていたためスムーズに進んだ。自分の年齢を考えて始めた事業承継計画が役に立った。A氏は退職金の代わりに甲社の売却代金を手にし、夫と引退生活を送っている。

教訓

・将来の事業承継を見据え、分散した株式の取得を少しずつ実行していた。
・あわせて、会社資産と個人資産を切り分け、"きれいな"財務諸表にしておいた。
・早めに事業承継の方針を設定し、税理士・M&A仲介会社に相談をしておいた。

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