成功例

早め早めの承継計画がもたらした成功
(自分の子どもに事業を引き継がせたい場合)

名称 医薬品製造会社 丙社 設立 1950年代
従業員数 45人 資本金 3,500万円
売上規模 約6億円 経営者年齢 60歳
主な資産 土地・工場・機械設備 株式 代表者80%、妻20%
事業内容 医薬品、医薬部外品ならびに健康食品の製造・販売

※情報はいずれも事業承継前の内容

【設立】

丙社は塗り薬の販売から始まった。
足を棒にして、目標数を販売するまで家に帰らない社長は夫人と二人三脚での操業だった。社長と夫人は毎日遅くまで働き、時には帰らないこともあった。社長の子どもたちは幼いころより当然のように父の仕事を手伝うようになっていき、長男は大学を出るとそのまま丙社に入社。「当時は親父の後を継ぐのが当然だと思っていた」と語っている。

【創業者から2代目へ】

創業者の長男が後継ぎとして社員からも頼られるようなってきたころ、時を待っていたかのように創業者は長く患っていた病に倒れた。その後もしばらくは加療に専念したものの、復帰には至らなかった。
「お客様にご満足いただけるものだけを売る」それが創業者の遺志であり、社是にも表れていた。会社は10数名の社員を抱え、遠方からも取引きがもらえるようになっていた。
2代目の社長は、新しいものを取り入れることに抵抗がない人物で、社員によると「お客様にご満足いただけるものを作る」ことを最初に掲げたという。その手段として、銀行融資により自社の設備を持った。売上に対して額の大きな借金だったが、社長には自信があった。これまでの販売のノウハウを活かし、価格に見合った商品を作れば必ず売れると信じていた。
自社で健康食品製造を始めると、先代が大切にしてきた人脈で、少しずつだが確実に受注が伸びた。社長自ら開発に参加し、営業活動に走り回った。「外が明るいうちに事務所にいること等、ほとんどなかった」と社長は振り返る。
新たな方向のためにさらに大きな設備投資をし、医薬品製造を始めた決断が功を奏した。動物由来のアミノ酸を用いた美白成分抽出技術で特許を取得すると、既存顧客だけでなく新規取引が増えた。年商6億円、社員45名に成長した。社長は60歳を迎えることを機に、まだ自身が頑張れるうちに、と会社の承継について考えるようになった。

【承継問題】

社長には妻と一男一女の子どもがおり、33歳になる長男を、いずれは後継者にと考えていた。長男が取引先企業に勤めることになった際も、他社を知る機会があれば後を継いでからも視野が広くなると期待していた。長男には常日頃から社長の意向を伝えてきたものの、当の本人にはまだ迷いがあった。「後を継げば失敗が許されない。でもサラリーマンならそんなプレッシャーもありませんからね」当時を語る長男は、3代目として苦笑いする。
一方、30歳の長女のほうは学校卒業と同時に銀行に入行し、結婚退職後も一貫して承継には興味を持っていない。
さらに問題は、長男が取引先に勤めていることで、社員が長男についてよく知らない、ということであった。社員の心情を思えば、突然やってきた息子が新たに社長に就くと聞けば抵抗感があり、自分を慕ってくれている社員が長男にはついていかないということも予想できた。
家族の問題として、長男に会社を譲るとなれば妻と長女には財産をどのように相続させるか、という問題もあった。長男に会社の相続に必要な資金、株式を相続させるのはもちろんだが、長年自分を支えてくれた妻と、新しい家庭を築いている娘にも財産を残してやりたい、という思いも強かった。

【解決の糸口】

社長は家族に対し、現状を話した。「今がその時だと思った」社長は後にこう語る。
長男は社長の思いを改めて聞いたことで、丙社に入社する決断をした。長男と社員がお互いに知る時間を取ることにした。工場勤務で実際の製造を学ぶことから始め、営業、本社業務とひとつずつ社員の仕事を学びながら、長男には段階的に役職につかせることで、権限委譲を行っている。
社員からは自分たちの仕事を学ぶ長男に対し、育ててやろうという気持ちと、社長の後を盛り立ててほしい、という期待が感じられるようになった。「外の世界を知っているので、こちらも教わることがある」と社員は好意的に受け止めているようだ。
しかし、決して初めからうまくいったわけではない。工場では社長の後ろ盾等関係ないと思い知る。大学で専門知識は学んできたが、経験がない長男の話をまともに聞く社員はいなかった。部活動や、サークルで代表を任されたこともあり、リーダーシップには少なからず自信があった。しかし現場では、実績も信用もない。自分の意見を通そうとして、指導役の社員から怒鳴られたことも度々あった。長男はそのとき初めて、「社長の息子という立場に甘えていた」ことに気付いたと話す。
長男は日々の業務以外に、毎朝工場と事務所の掃除を始めた。「後継者や中途入社社員ではなく、あくまで新入社員という気持ちが必要だった」と言う。
長年勤めている社員の出勤は早い。朝のうちに、現場の掃除をしながら社員に質問した。喫煙者ではなかったが休憩時間には喫煙所に行き、社員に話しかけた。営業に同行する機会を増やし、顧客の声を聞いた。もともとの面倒見の良さと明るい人柄で、社員とは少しずつ打ち解けるようになっていった。
家族の相続についても、社長の希望により妻には自宅と預貯金、長女には預貯金のみ、そして長男に会社の株式を集中させることができ、株式分散を招かずに済んだ。

教訓

現社長の統率があるうちに計画的に承継計画を立てたことである。時間をかけた緩やかな変化により、円満に事業承継を行うことが可能になり、社員と後継者にも負荷が少なくて済んだ例となっている。

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